第10章 琥珀色の闇*
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前もって三田村が話しておいてくれたのか。
いく日か目黒邸に滞在するエマを、青木も快く迎えてくれた。
「ホテルの方はそのまま取っておきますから、ごゆっくりお寛ぎください」
透子は彼女を庭に誘った。
「それならばお茶をお持ちしましょう。 たまには温かいココアでも」と、青木が外付けのテーブルに湯気の立ったカップとお茶菓子などを運んできてくれた。
落葉しかけた庭木はやや侘しさを感じられるものの、熟して赤い実をつけたナンテンや日陰のホトトギスなどが目を楽しませる。
「もう冷えマスからねえ、ひざ掛けをお持ちしまシタ!」
「この間に客間を整えておきますわ」
「日本の風呂も是非楽しんで行ってください。 屋外の露天などはお子様も喜ばれるでしょう」
ひょいと訪ねに来てはみなに声を掛けられ、最初は戸惑って緊張していた面持ちのエマの表情が和らいでいった。
「来た時は気付かなかったけど、日本の景色ってのは綺麗なもんなんだね」
「エマさんは南の方の出身ですか?」
「ああ。 訛りがあるだろう? 今はニューヨークに住んでるけど、故郷のオクラホマと少し似てる。 あそこも日本と同じに四季があるから。 あの、静って人も八神…京吾と同じにイギリス英語だね」
「静さんのお父…京吾様も? 静さんと同じに留学でもされてたんでしょうか」
「さあ? 亡くした奥さんがイギリス人だとか言ってたね。 南部はイギリスからの移民の祖先がまだ多く残っていて、少しだけ言葉も似てるんだ。 あの人とはそういうのもあって、つい、懐かしくなってさ。 歳は食ってても物腰はスマートだし、ただのウエイトレスのアタシにも優しくしてくれたんだよ」
当時を思い出すかのようにエマが目を細めた。
確か、静の祖母がイギリス人ではなかったか? 透子が記憶をたどる。