第10章 琥珀色の闇*
「フ…だろうな。 そういうキミの性格は分かっているつもりだ。 それこそ俺は信用を失うのだろう…と、別にこれは調べた事じゃない」
忙しいのに、時間がないのに、わざわざ送りに寄ってくれた。 透子はその事実に今さら気付いた。
今までも、いつもこの人はそうだった────なぜ忘れてたんだろう。
「静さん、私は言い過ぎたのかも知れません。 もし言いたくないのなら、そう言って下さい」
大人気ない自分の態度を振り返り、それでも割り切れない気持ちを上手く消化出来ない。
「いや、構わない。 今晩は早く帰るから待っていてくれるか?」
そして静はこんな風に自分を縛る。
彼がごくたまにしか見せない、懇願するような瞳の色が不安げに揺れている。
静の手から腕を抜き、なるべく表情を和らげて彼の手に自分を重ねた。
「いつも待ってるじゃないですか」
「────そうだな」
そう言って微笑んだ静が透子の肩に手を置き、軽く口付けをした。
それから何か言いかけて口を閉じ、彼がたどたどしく言葉を並べた。
「俺は…毎晩帰って、キミの寝顔を見れるのは嬉しい……では、行ってくる」
そんな静から目が離せず、透子はじっと彼を見詰めていた。
一緒にいたい。 と、静もそう言っている気がした。
「はい、待ってます」
それとは裏腹に、躊躇なく去っていく車を見送る。
なぜだかふと、一抹の不安が透子の胸によぎった。