第2章 誰より優しく奪う*
「失礼します」
コンコン、とノックの音がし先程の執事の人が部屋に入ってきた。 首尾よく八神家の執事がローテーブルにティーセットを配置する。
優雅な仕草で、銀のポットから黄金色の液体の束がカップに注がれていく。
映画の一幕かと思われるさまを眺めていると静が話しかけてきた。
「キミは高校時代、学力やスポーツに秀でていた。 容姿も……決して悪くない。 都心に出て有名大学からそれなりの企業に入る道もあっただろう」
また自分のことを調べたのだろうか。
ご苦労なことだ、とやる気なく口を開く。
「私にはそれほどの余裕はありませんでしたから」
「余裕?」
「おぼっちゃまには分からない世界でしょうけど。 今どき都会の大学生が年間いくらかかるか知ってるんですか? 賃貸でも都内を外したとして築何十年の物件を駅から自転車で通うとしても最低月五万。 プラス、物価も田舎より格段に高いですし。 学費は国公立に特待生を狙うにしても、今は奨学金制度が先行して、一人当たりの貸付なんて借金並で」
色々調べては進学の道が絶望的になった当時を思い出し、思い詰めた目付きで、つらつらとリアルな現実を話し出す。
それに気圧された静が両手を顔の前で広げ、透子を落ち着かせようとする。
「い、いや…わ…わかった。 それなら、白井の家から援助を受けなかったのか?」
「援助って……当時はただ私は叔母と姪いう間柄に過ぎませんでしたし」
「……それさえも無かったのなら、逆になぜキミは突然親族の養女に入らされて……知らない男と見合いなどと? こんなのは騙し討ちもいいとこだ。 それともやはり裕福な暮らしに憧れが?」
「……そんなもの、貴方には関係ないでしょう」
ぷい、と静から顔を背けて短く言い放つ。