第9章 讃えられる寂しさ
別の意味で、力が抜けるほどホッとしている。
どうやら自分はかなり静に依存しているらしい────気持ちの拠り所という点に関して。 透子は今朝感じた、不思議な気持ちをまたもや思い出した。
「この三田村。 早合点して客人に危害を加えてしまい申し訳ございません」
「お前は大いに反省したまえ」
「まあ。 でも何というかね。 あの女性、静の好みとは全然違うよね」
西条が呑気な調子でそんな事を言う。
それに頓着なく静が返した。
「好みというものは特に無いと思うが………母国語を満足に話せる位の知力は欲しい所だな」
「それにしても白井さん。 心配していたけど、何とか無事で安心したよ。 見舞いがてら寄って良かった」
「………では私共もこれにて」
それを合図に桜井と三田村も室を後にした。
肩頬を腫らして両鼻にティッシュを詰めた西条が立ち上がる。
どこかでこれに近い光景を見た。
ふらつく足元に西条の方が無事かと透子が心配する。
一方、そんな透子を観察していた西条が、うーんと腕を組んだ。
「けど、そうだなあ。 静の言う通り、まだ本調子じゃなさそうだ。 始業はさ来週からにしようか。 慣れない環境は知らないうちにストレスが溜まるものだよ。 人間って、思うほど順応性が高くない動物なんだから」
「私なら、来週からでも大丈夫です」言いかけるも、下手に無理をして先方に迷惑を掛けるより、その方がいいのかもしれない。 少し考えたのち、透子が優しく言い含めてくれる西条に頷いた。