第9章 讃えられる寂しさ
「その女性もだな………最初に国立に行ったのなら、青木から説明してくれれば良かったのだ」
「そんなわけにはいきませんわ、私共からあの方のお名前を出すなんて。 国立の青木様も、内々でお話ししていただくべき事とご判断されたに違いありません」
桜木がやや申し訳なさそうに、透子へチラリと目を向けた。
八神京吾、静の父親。
静が簡単に説明してくれたが、去年からは現場を退き、現在は会長役に就いているという。
それだけあって、還暦も過ぎた印象の人だ。
「あのジジイ、今頃盛んになりおって。 どうせなら20年前に種付け出来ていれば良かったものを。 使えぬXXXめ」
人目はばからず放送禁止用語を発し、ブツブツ文句を言っている静はまたもや不機嫌そうである。
それまで大人しく佇んでいた青木がサラッと事態をまとめ始めた。
「何にしろ。 会長と血縁の可能性が出てきましたのなら、このままにはしておけません。 この親子には宿泊先を取り、その間にDNA検査をするということにいたしましょう」
「そうしてくれ………」
親子と連れ立った青木と美和が客間を出て行き、静がふう、と深い息を吐いた。
「静さん。 私、勘違いをしてしまって動転を………ごめんなさい」
「静様、以前のように透子様をお責めになりませんように。 仕方のない状況だったのです」
「分かっている。 むしろ身内が迷惑をかけた」
桜木のフォローに静が頷く。