第9章 讃えられる寂しさ
御曹司というか、それはもう社長………取締役の仕事ではないのか。
30社以上と聞いている。
承認といっても、単に判を押すだけではないのだろう。 透子には想像しづらい世界だ。
こんな人に自分は色々手間を掛けさせていたらしい。
それから点滴や怪我の治療を受けて軽く入浴をし、あれよあれよという間に静に抱き込まれて眠った。
「………」
ベッドから身を起こしじっと考え込む透子の耳に、密やかなノックの音が聴こえた。
「透子様、おはようございます。 目覚めにお飲み物をお持ちいたしました。 13時過ぎにお客様がみえるため、その前に美和の診察を」
こういう、タイミングの良過ぎる青木の言動も、静や自分の指に身に付けられた指輪のお陰なのだろう。
自分にとってはプライバシーという点で反射的に抵抗を感じるとしても。
それでも、静は日々、こんなものを必要とする生活を送っているという事だ。
「────おはようございます、分かりました。 青木さん」
なるべくと明るい声で、透子は応えた。