第2章 誰より優しく奪う*
「ふ……そうだろう。 たまに逆に、見合い相手にこちらの素性を調べられることもある。 そんな時の女はこぞって────」
「ええと、すみません」
よく分からない話を遮ろうと透子が片手をあげた。
「するとこの場合、本人と偽ってお見合いしたのは八神さん側ですよね」
「ン? まあ、そうだが」
「では義理を欠いた非はそちらにあると思いますので、うちに謝罪して破談にして下さい。 そしたらマナー云々も問題ありませんし」
「……いや」
「ホッとしました」
「いや待て女」
慌てたように立ち上がる男性────静と極力関わらないようそそくさとドア口に向かう。
「では私はこれで」
破談になったら養子縁組を解かれるのかもしれない……それでもまた故郷に戻れば済む話。
うーん。 でも、そしたら────……
「待て待て待て待て、貴様!」
内側に開けかけたドアをバンと押され、背後に静の気配を感じた。
考えごとを中断されて心から嫌そうな表情を作り、透子は静を見あげる。
居丈高な彼の様子からはやはり『謝罪』なんてものは期待出来そうにない。
「……私は女でも貴様でもありませんが?」
すると執事さんとやらの発言は、体よく自分を呼び出すための方便だったらしいと透子は察した。