第2章 誰より優しく奪う*
そこから約三十分かかり、透子はおそらく都心郊外にあると思われる建物の前に降り立った。
洋館? いやちょっとした宮殿だろうか?
外観はイギリスかフランスにある建築物に似ている。
両開きの大きなドア口に立っている透子の背後にはご丁寧に噴水まである始末だった。
……どこかの大使館より立派なこれが個人の家だという。
「透子様。 ささ、お早く。 二階で静様がお待ちです」
ポカンと口を開けてる透子の背中を押してくるこの人もまた、どこかの誰かと同じくせっかちらしい。
玄関両脇を螺旋状に飾る階段やフカフカの絨毯に何を思う暇もなく、訳が分からないまま、客間らしき部屋に通された。
「静様。 透子様がお着きになりました」
「────え……」
豪奢な長椅子の上で不機嫌そうにふんぞり返ってるのは、車の中にいた男性だった。
「遅い」
相変わらずムカつく態度とそれからオーラが眩し……だからそれは置いといて。
「あ、あの。 八神さんは?」
キョロキョロ辺りを見していると、男性が呆れたように声をかけてくる。
「キミは鈍いのか? 八神静は俺だ」
「………」
「嬉しいだろう?」
そしてなぜだかにやりと口許を緩ませる。
「あ。 は、はい。 それは、とても」