第8章 満天の夜に
「近所迷惑だろう? 早く先に行きたまえ」
お尻を押され………というより、下からサワサワと撫でられながら、透子は悲鳴をあげつつ大急ぎでハシゴを上った。
中の桜木に手を引かれ、続いて静も乗り込んだのを確認した桜木が「こちらにお座わりになり、シートベルトを」と指示をした。
機体前方に向かい、体が後ろに傾いたと思うとヘリが高度を上げていく。
天井が若干低い他は、中は比較的広く、両側に皮のソファーがある。
ゆうに六人から八人は乗れるだろう。
美和も奥の席に座っている。
操縦席らしき所とは、壁と分厚いカーテンで仕切られていた。
飛行が安定した辺りで、救急箱を手にした美和が透子の隣にととと、と座ってきた。
「お体を見せてくだサーイ! 状況から私の見立てによるとお。 ああ、かなりのストレスがかかって、交感神経が悪さしまくってマスねえ。 一週間もあれば過度なストレスで人間は死ねますから、早く来れて良かったデス」
美和が小さなライトを照らし素早く透子の目や口の中、触診や聴診で首や胸を調べる。
透子の向かい側に座っていた静が美和に聞いてきた。
「ずっとえらく体が冷えていたが」
「筋肉の緊張から来る血流不足デス。 頻脈に息切れ、寝不足。 胃痛や耳鳴りは?」
当たり前だが話どおり、普通に医者だ。
美和の手際の良さに感心しつつ、透子が自分の体の調子を美和に伝える。
「………胃は、少し?」
「あまり食事を取っていなかったのでしょう?」
前方と隔てたカーテンから桜木が姿を現し、心配げに透子の様子をみに来た。