第8章 満天の夜に
受け入れる理由。
抱きしめられている今も、背中に手を回して存在を確かめる。
重ねられた口付けに自然に応え、静と視線を絡ませる理由。
「あ…会いた、かった。 不安で。 触れて………静さんが傍に、いなくて」
「キミが辛く悲しい時に頼られなければ、何のために俺がいる? 今日の昼になって、俺の名をやっと呼んだだろう」
ふっ……と表情を甘くゆるめ、湿っている透子の瞼に口を付ける。
頬に、それからまた唇に。
「意地っ張りめ────……」
唇で………腕で、肩で胸で手で、その隙間を埋める。
こんな時に目を閉じる理由が分かった。
それは、きっと世界中にこの人しか居なくなるから────そうあって欲しいと願うから。
ぷたぷたぷた………
だがしかし。
冷静になってみると、大通りへ出た道の真ん中で、何をイチャついているんだろう。
住宅街とはいえ。 と、透子が今更のように気付く。
『離せ』の意思表示として、張り手みたいに静の胸を押す。
力比べと勘違いしてるんだろうか。
「ほーなかなかやるな」などと対抗して腕を取る静が煽ってくる。
「あの」
「ん………?」
ダメだ、体力が落ちてる。
ぷは。 と息を吐いて、諦めた。 力なく彼にもたれた透子が上を向く。
「さっきから、頭の上でぷたぷた飛んでるアレはなんですか? それから、私の言動を把握済の理由を説明してください」
頭上を旋回しながらずっとついてきてるような気がする。