第8章 満天の夜に
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「あれ? トランポリンは? 今日は車ではないのですか」
「すでに撤去済みだ」
ぷたぷたぷた………
家の外に出た静と透子は、白井家の前の道路を歩いた。
手を引いて前を歩く静がどこに行くのか。
わざわざ助けに来てくれた、そのお礼を言いたかった。
それから、今後の事について。
自分は一から生活を立て直さなければならない。
「静さん、私は」
「なんだね」
「私は何も持っていません。 でも叔父から、少しお金をいただきました」
「………」
「静さんにはご迷惑をお掛けして………助けていただいて。 それなのにお世話になるにも心もとなく。 今は足りないかもしれませんが必ず」
「明日にキミの身分証などの必要な物は取り返す。 だが俺は」
ぷたぷたぷた………
ぐいと透子の腰を引き寄せ、密着した体と共に頭の後ろに手を回す────有無を言わせなく、強く、押し付けられる唇に、透子が目をしばたたかせた。
自らとの間に挟まれた手のひらに静の胸があたる。
膝が震えて力が抜けそうになった。
「ぅッ……っふ…」
体温と僅かな体液………が、透子の体に流し込まれる。
目を閉じていた静が薄らと瞼を開く。
「俺は気が気では無かった。 今俺の腕の中にいるのがキミならば、それでいい。 キミも同じ思いでは無いのか。 こういう時、戸惑いながらも必死で俺を受け入れてくれるのは?」
「し、しず………私…は」
「その理由を聞かせて欲しい」