第2章 誰より優しく奪う*
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それから数日後。
『のちのち使いを寄越す』というあの人の言葉どおり、八神家の人が家を訪ねてきた。
どうやら前日に義母が連絡を受けていたらしい。
『透子さん。 午後から出掛けるから支度をしてちょうだい。 沙紀の服とサイズが合って良かったわ』
昼食後に、なにやら高そうなワンピースを手渡された意味が分かった。
前回と同じく、立派な車で迎えに来てくれたのは小柄でパリッとした黒のスーツ姿の、品のいいお爺さんという印象の人物だった。
「先日は失礼いたしました。 直にお目にかかるのは初めてですね。 わたくしは本家の執事の者です。 本日は透子様をお屋敷にご案内をと」
と言われても。
行きたくないのが正直なところだった。
また『あの人』がいたりするんだろうか。
腰を折ったままの八神家の執事が無言の透子に付け加えて話してくる。
「……先日の無礼について静様が謝罪をしたいと」
「そう……なんですか?」
「はい」
ということは。
八神さんがあの人の言動を聞いて気を使ってくれたんだろうか。
彼は内気そうだったけれど、悪い人には見えなかった。
あんなに地位のある人がこんな風に自分に気を配っ……
「考えごとでしたらお車の中でどうぞ」
「え、あっ。 いやあの」
考え込むのも許さずグイグイと車の中に押し込んでくる執事さんとやら。
「透子さん行ってらっしゃーい」
それから義母ににこやかに見送られ、再び透子は無理やり気味に連れ去られた。