第8章 満天の夜に
踵を返しかけていた静が大きく前へ踏み出し────今度は突然、義母の胸ぐらを掴んだ。
驚きか苦痛からか、義母が目を剥き、くぐもった呻き声をあげる。
「………ぐっ…!?」
「おい、貴様………そんなことを、そうか。 葬式の席で言ったな? まだ年端もいかない、両親を亡くしたばかりの少女に、言葉の暴力を振るったんだな!?」
床に義母のつま先しか着いていない。
近所中にも響き渡りそうな静の語気と剣幕に、沙希も含め、室内にいた全員が固唾をのんだ。
細切れな呼気の合間、だが義母は気丈にも、蔑みを強めた目で静を見た。
「うグ…ゥっ、け……れど、貴方も卑し…」
「俺のことはどうでもいい。 窒息したくなければ答えろ。 なぜ人の存在を否定する? そんな権利が貴様に」
「し、静さ………」
女性相手に手加減しない静に驚いたが、考えてる場合でないと透子が静を止めに入ろうと足を踏み出した。
「やめてくれ!!」
その前に騒ぎに割って入ったのは、叔父の絞り出すような声だった。
「うちの者にそれ以上手を出さないでくれ。 その娘は、疫病神だ………これをくれてやるから…さっさと受け取って、揃ってここから出て行ってくれ………」
叔父が茶封筒を静に投げて寄越し、その中を確認した彼が、叔父に向かって義母を荒っぽく突き放した。
「ゴ、ゴホッゴホッ!! ………お、おと…さ」
「パパ、正気!? 会社の特許を取られたら、うちはどうなるの!」