第8章 満天の夜に
静が早足で階段を降りる。
テレビや人の声がするダイニングルームへと真っすぐ向かう。
透子が彼に追いつく頃には、すでに静は出入口の脇に両手をつけ、居丈高な口上を述べ始めていた。
「白井家の方々、夜分に失礼する。 此度は貴家の娘である透子の引き受けに挨拶に参った」
「………え?」
「は?」
「愚鈍なのか? 早々と理解したまえ。 俺の時間は君らのように安くはない」
静の脇から透子が覗くと義母と沙希の他に、珍しく叔父もその場にいた。
いち早く立ち上がって静に反応したのは、やはりというか沙希だった。
「ふ、不法侵入……っ!! 警察を呼ぶわよ!?」
「………いい反応だ。 透子に対する軟禁や虐待の証拠は持っている。 正式な診断書が出来るな? 理解出来るなら、透子は貰っていく。 養子縁組も近々解消させるから、そのつもりで」
固まっていた義母の顔色が変わった。
さ、行こうかと言わんばかりに透子の肩を抱く静に、沙希が大声で呼び止めにかかる。
「待ちなさいよ! か、会社の!!」
「ん?」
「そうはいかないわよ。 フフッ……やっぱり来ると思ってた。 知ってるんだから。 うちの会社の、医療器具の特許。 元々それで、家に近付いたコト」