第8章 満天の夜に
静が上から落ちてきた────と思う間もなく、その直後に、ガッ!! と、ベランダの外を隔てている柵を力強く掴む。
「ッっあわ…っ!? し、静さ……!」
「ふう………軽く死ぬかと思ったぞ」
「なっ…な? どこから………!!?」
驚きでちょっとしたパニックになっている透子にちらと目をやり、片腕を軸にして、静がベランダの内側にヒラリと降り立つ。
相変わらず高そうなスーツをピシッと着こなし、宵闇に浮かびあがる黄金の髪が眩しい。
そんな彼がハンカチで手を拭き、「失礼する」と靴を脱いで部屋の中に入ってきた。
と、透子に向かって腰を折り、胸に手をあててひと言。
「囚われの姫を救いに来た」
「────静さん……って、王子様なんですか?」
「無論。 キミだけの」
長く透けたまつ毛で琥珀の瞳を覆い、目を上にあげる。
透子は黙っていた。
とりあえず乗っかってみた、自分も何だけど………手にキスしようとしてきた時も思ったけど。 この人のこれって、天然(ガチ)なんだわ。 改めて驚きを隠せない。
そんな透子に頷きを返し、「どこからと言うか」と、先ほどの彼女の質問に静が長々と説明を加えた。
「父親のプライベートジェットを借りようにも、屋上に着陸出来るスペースが無い………トラックで突っ込むという美和の言は無視するとして。 気付かれぬよう忍び込むのが前提だしな。 桜木はロープを使えと言うも、スーツが汚れる。 そこで三田村の案だ」
言いながらなぜか室外の廊下に靴を置く。