第7章 閑話 百花繚乱*
「そもそもが、だ。 俺は今朝、先に目覚めたものの、キミの寝顔がかわいすぎて起こせなかった。 見ているだけで幸福だったが、愛おしくて少し頬を撫でただけで………で、その後に肩に触れたら………で、そして胸に………で、その間中、密やかに悶え続けるキミを」
「………」
「俺にガマンしろと言うのか!?」
突如カッと目を見開きこちらを責めてくる、これは逆切れというものでは。
「すると、ええと。 静さんがあんな事をしたのは私だからですか?」
「当たり前………だし、そんなことを…そうやって………ああ。 またキミはそんな、無垢な振りをして俺を惑わすのか………それはそうと。 そこの。 忍者かお前たちは」
ガタ、と物音がし、脱衣場の隅……天井近くにある換気口の陰から桜木が姿を現した。
「ハッ!」
次いで拍子に仕切られた頭上の棚袋の中から、三田村がゴロリと這い出てきて透子が軽く悲鳴をあげた。
「この私の気配を………?」
ふうと息を吐いた静が、去れとばかりに手を振って払う。
「どうでもいい。 話は聞いただろう。 理解したなら、この場から消えたまえ」
室内の床上に降り立った二人が静の前に片膝をついた。
「は………」
「しかし透子のことを慮ってくれる気持ちには深謝する。 嗜好に若干の懸念はあったが、三田村。 青木に伝え、正式に雇用を結びなさい」
「………」
黙っている三田村に静が多少面倒そうに伝えた。
「透子に俺が相応しくないと判断したのなら、遠慮なく奪えと言っている」