第6章 針
『キミと俺はどこか似ている』
そんな静の言葉が透子の脳裏を掠めた。
「貴女が中学校の教師といかがわしい行為をして、学校へ弁明に向かった途中。 気が動転していた姉たちが事故に遭った────当時の私たち親族の怒りが、貴女には理解出来て?」
「ご、ごめ……なひゃい……お、母」
あれは、放課後に呼び出された、部活動の教師が突然体を触ってきて。
驚いた透子に突き飛ばされた教師が、打ち所が悪く頭を縫う怪我をしたせいで大事になった。
父母が学校側へ抗議をしに行った、その時に起きた悲劇だった。
『貴女は私たちに数え切れない喜びをくれた』
それでも父母は決して 不幸では無かったのだと。
あの八年は宝物だったのだと、自分と同じにそう母も思っていてくれたのだと。
一番近い血筋の義母に分かって欲しかった。
ゆっくりと、噛むように義母が憎しみを吐く。
「私は………姉を慕っていたのに」
母もそうだった。
多少思い込みが激しいとはいえ、情が深い妹なのだと透子に話してくれていた。
『妹は私の代わりに、白井の家の犠牲になったようなものだわ』
と。
後から後から涙が出てくる。
「な…ごめ………んなさい…ごめ」
糸の切れた人形のように透子は謝り続けた。
そんな透子の頬から指を外した義母は何も言わずに部屋から出て行った。
膝が崩れ落ち、そのままうつ伏せて体を折る。
小さくなって消えてしまいたかった。
体中を鋭い何かで突き刺されてるみたいだ。
『俺は親に育てられた覚えはないし、居ないも同然だ』
────静に会いたい。