第6章 針
『何も持たずとも、行ける場所を見つけたんだね?』
分からない。
ここから逃げたいと思う。
だがそんな理由で自分は『会いたい』のかと、そう思い付くと、とても口には出せなかった。
それでも陽に映えて、琥珀が光りなびく彼の髪や瞳の残滓は────すべてを照らす黄金のようで。 思い返すたびにまばゆく透子の胸を焦がす。
目黒で過ごした先週末は感情の起伏に目が回りそうだった。
怒って、笑って、驚いて、泣いて、また笑って。
今とはまるで逆だ。
「しず……か…さん………」
せめてその時のことを思い起こし透子はつい、小さく呟いた。
すると透子の中の彼が、
「どうした? 透子。 また泣くな」
そう言い、痛む頬を優しく撫でてくれたような気がした。