第6章 針
「────咲希ちゃん? なんだか大きな音」
咲希と入れ違いに覗きに来た義母が、通りすがりに肩をぶつけて去っていく自分の娘の後ろ姿を困り顔で見送った。
「透子さん………あんまりあの子を刺激しないでちょうだい。 癇癪をなだめるのも大変なのよ」
「お…母さん、ごめんなさい」
「なあに? 最近は人の顔を見たら謝ってきて」
怪訝な表情をする義母に気付いて我に返る。
この人は母ではなく。
でも今の自分の手元に母は無いから。
あれ、私、どうしたんだろう?
足元がグラグラする。
「咲希ちゃんも困ったものだけど………静って人の出自を考えると、こうなって良かったのかも」
体を支えるようにデスクに手をついている、透子の顔を見た義母が進み出た。
「顔、怪我をしたの? まあ、結局は貴女と同じ穴のムジナってことよ。 色々問題があるって言ったでしょう?」
叩かれた頬をグイッとつねられ、透子が痛みに眉を寄せた。
「あの人って実は正式な長男の子じゃなくって、元は兄弟が、どこかの女に産ませた私生児なのよ。 ある意味、透子ちゃんとはお似合いだとは思うけど。 きっと貴女みたいにふしだらな血が流れてるのね」