第6章 針
黙っている透子の手元を見、指に手を伸ばしてくる。
「何そのリング。 今までしてなかったわよね。 ダイヤとタンザナイト?」
「………触らないで!」
手を振り払うと意外に力が強過ぎたみたいで、自分の手首の辺りを庇った咲希が顔を歪める。
「大丈」ハッとして近寄った透子の頬を派手な音がするほど平手で強く打った。
「あたしに逆らうと、倍になって返ってくるって知ってた? ホラ、仕返ししないの?」
叩かれた時に爪で引っ掻いたのか。 肌に鋭い痛みを感じた。
頬を抑えたまま口をきかない透子につまらなそうに咲希が鼻を鳴らした。
「………そんな人間を今さら苛めても大して面白くないの。 パパと同じね。 お昼はピザを取るけど、希望はある?」
「要りません」
食欲などまるでなく日に一度、ただ義務感で食べていた。
立ち上がって戸口に戻りかけた咲希が部屋を出る前に透子を一瞥した。
「………だからあんたは馬鹿だって言うのよ」