第6章 針
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翌日の昼になり、沙希が透子の様子を見にきた。
先週末と同じ調子で無遠慮に部屋の中を見渡し、ベッドに腰掛ける。
綺麗に巻かれた毛先を弄り長く伸ばしたまつ毛を伏せて不満を漏らす。
「あの男。 たしか今日挨拶に来るって言ってたわよね? うちに電話の一つもなかったのはどういうことよ。 スマホの方にもサッパリ」
「そんなもの、私には分かりません」
透子が素っ気なく言った。
そもそも誰かのせいで連絡の取りようもないのに。
「フーン。 案外、透子ちゃんのことはどうでもいいのかな。 あたしのこういう勘って、外れないんだけどなア。 それならもうしばらくしたら、北陸に帰る?」
悪気があるのかないのか。
顎に指をあて、渋い表情で斜め上を向く。 そんな彼女が何を考えてるのかさっぱり分からない。
「愚痴なら他で言ってください」
「体の関係は当然あるのよね。 カレのってどう、セックスも自分本位でヘタクソじゃないの?」
仕舞いに天を仰いだ咲希がケラケラ笑い出す。
「あら、透子ちゃん、怒ってる?」
返事をしない透子に、ベッドから身を乗り出し興味深そうに訊いてくる。
それよりも形見を返して欲しかった。
だが自分の弱点がこれ以上露呈すると咲希はますます手放してくれないだろう。
咲希のそんな所は子供みたいだ、とも思う。
「どちらかというと呆れてます」
「そう。 私はどちらかというと馬鹿にしてるわ、昔っから。 ねえ、何を好き好んでこんな家に来たの?」