第6章 針
『この子は真っ直ぐで賢そうな目をしている』
『やっぱり貴方もそう思うでしょう?』
施設で、両親との顔合わせの時に透子が言われた。
やたらと仲が良く朗らかな夫婦だったのを思い出す。
「争わないというのも………弱さじゃないと思います」
これも透子の正直な感想だった。
見ない振りか忍耐なのか、どちらにしても。
「………きみは葬式で会った時とちっとも変わらないね。 酷い言葉を投げ付けた慰問客にも頭を下げて。 せめて、なにか必要なものは………」
「無理にはと言いませんが、もし可能ならお願いできませんか?」
何かと目で訊いてきた叔父には真摯な様子が垣間見える。
透子が形見のことを彼に話してみた。
「今私をこの家に引き留めているのはそれだけです」
「ふう………沙希がか」
叔父がやるせなそうに頭を掻き、作り笑いに失敗した時みたいに口が歪んだ。
「………隠し場所に心当たりは無いですか?」
「いくつか。 無いこともないし、それならわたしも協力出来る。 ………わたしはきみが出ていくと聞いてホッとしていたんだよ。 悪い意味ではなくね。 きみに無視や嫌がらせをする二人を見てるよりは、わたしが無視されてた方がマシだし、何よりきみのためだから」
「………」
たしかに気が弱く一見頼りない人に見えるかもしれない。
だがこの家はきっと、この叔父の努力で成り立っているに違いない。
「なにかのためにこれを持っておきなさい。 深くは聞かないが………何も持たずとも、行ける場所を見つけたんだね?」
そう言いながら叔父が小さく折ったお金を透子に握らせてくる。
今度は別の意味で目に涙が溜まり、透子は無言で彼に大きく頭を下げた。