第6章 針
「………透子さん。 いいかい?」
小さくヒソヒソとした声が戸口から聞こえた。
意外な人物が訪ねてきたので、少し驚いた。
「叔父………お義父さん」
「ああ、叔父で良いんだ。 父らしいことなど、わたしは何もしてないんだから」
そう言って目の前で手を振り、仕事帰りなのか。
やや疲れた様子でドア口で透子と向かい合った。
特にどうということは無い普通の中年の男性だ。
無口で大人しい性格のようで、休日も半分は職場にいる。
「二人から話を聞いた。 なんと言えば………こんな、犯罪じみたことを」
軽く首を振った叔父からは自分に対する同情を感じた。
それから、自嘲、だろうか………?
「なんとかしてあげたくとも、済まない。 婿養子でこんな性格のわたしには妻を止められないし、あの通り娘を甘やかしすぎた」
「い、いいえ。 そんな………ありがとうございます」
同情だとしても、尖っていない言葉が透子に沁みた。
「礼など…きみの父親………死んだ義兄さんみたいにわたしも強ければ良かった。 最初は白井の会社も、お義姉さんのものだったのにね」
もう亡くなった祖父と母は折り合いが良くなかったらしい。
同じく婿入りした父は、母を庇う形で白井の本家に勘当同然になったという話を聞いたことがある。