第6章 針
たとえ子供が出来ないという理由で引き取られたのだとしても、父母はそんなことを、ちっとも思わせてくれなかった。
透子の身を整え、人間関係のマナーを教え、透子に危害を加える者に怒り、自分の感情の浮き沈みを捉えて寄り添ってくれた。
いくら返そうと思っても思っても、もう父母はいない。
父母と自分を繋げるものは、自分の手に無い────なにで補えばいいのか。
それを失ったと同時に、重い鉄みたいに心の内から湧いて来た。
寂しさや虚しさがこびりついた、いくつもの感情を、どこにやればいいんだろう。
母の最期に自分はなにも言えなかった。
まだ『借り』を返していなかったのに。
「うく………う…ぅっ…おか…さ…お父…っ」
顔を覆って声を殺し、透子は部屋の中でうずくまって泣き続けた。
ごめんなさい───────……