第6章 針
「失礼します」といつものように断りを入れ、青木と女給士が二人、室内に入ってきた。
「透子、抱きしめたら落ち着くか?」
ブンブンと首を横に振られたので、静が顔を伏せたままの彼女をとりあえずシーツでくるむ。 その際に、ビクッと怯えたように透子の体が強ばった。
困惑して窓際に進み腕を組む静と、膝を抱えたままの透子を見、青木と女給仕が視線を交わす。
「………静様。 透子様が食しやすいよう配膳を整えますので。 恐れながら少しばかり、廊下の方へ」
「は? なぜわざわざ」
静が戸口の方へ目をやると、女給仕がそこで軽く頭を下げていた。
『三田村さんは良い人です!』
透子がたしかそう言っていた、そして彼女と同じく、まだここに慣れていない────あの背の高い方がそうだな。 と静が思い付き、ふう、と息をついて廊下に出、音を立てずにドアを閉めた。
「透子様。 お体のため、なにかお口に」
シャッと音がし、窓際からより明るい気配がした。
庭に面した窓には分厚いカーテンが中途半端に引かれていたが、秋の朝の日差しはことのほか強いらしい。
その後透子の隣で、青木がカチャカチャ食事を整えている音がする。
「なんとお声をかけていいのか、分かりかねますが」
ゆっくりと、気遣うような青木の声音だった。
「………静様が他人を同室に泊まらせるのも、以前から女人に対し、あのようになるのも、わたくしは初めて拝見しますゆえ」