第6章 針
少し考えてから、モソモソと静の傍に潜り込み、腕を伸ばした彼の肩との隙間に体を入れた。
「血は止まりました? もっと首側を高くするといいですよ」
「あれは不味いから嫌だ」
プイと顔を横に向ける静を無視し、枕を一つ彼の首に差し込む。
「文句言わないで、ホラ」
「キミの母君もそうやってくれたのか?」
「え? そうですね」
「そうか」
静はそんな透子をしばらく目で追っていたが、彼女がまた腕の間に収まるとゆるく肩を抱いた。
心が安らぐと言ってくれたのと同じに、静に包まれるのは………心地好い。
他の人は知らないけど、こんなのも、自分が彼を受け入れた理由なのかもしれない。
それになんというか、静は乾いたお日様のいい匂いがする。
さりげなくドキドキしながら、透子が壁時計の音に耳を澄ませ、ふと、静に訊いた。
「………添い寝は他の女の人でも」
「………」
凄い、ホントに三秒で寝てる。
規則的な寝息をさせて眠る静に、最初国立で見た印象とは少しだけ違うものを感じた。
綺麗な外見をした23歳という歳なりの、男性だ。
「………なんだか今は可愛いですね。 このお坊ちゃんは」
いつも忙しそうなのに。 指輪や他人の服に気を配り、今朝は早くに迎えに来てくれて────本来の静は繊細で優しい人なのだと思う。
『親は居ないも同然』
それについて静はなんとも思っていなそうだった。
実の親の顔を自分は知らない。 それでもたった八年という短い間とはいえ、父母はたしかにいたのだ。
「親が初めからいないのと、途中からいないのは、どっちが幸せなのかなあ…」
そう、心の中で小さく呟いてみる。
静が普段偉そうな態度を取るのは、あれも自分の身を守るための防御なのだろうか。
彼がそうなのは、昔からだと西条が言っていたことを思い出す。
それって、なんだか切ない────静の温かい胸に頬を押し付け、つられてウトウトと微睡んでいく。