第6章 針
「夕食は19時でよろしいでしょうか」青木が確認を取り「では、わたくしはこれで」と、また部屋を出て行った。
青木の後ろ姿を見送った透子が、ポツリと言う。
「それにしても、青木さん、あの時必死でしたよね」
「俺は子供の頃によくのぼせてたからな。 両方過保護なところはあるんだろう。 昔は滑って頭を打ったりして搬送されたものだ」
「ああ頭、分かります。 だからそんな」
ジロリと透子を睨んだ静から目を逸らす。
「えっと。 静さんの親御さんは? それに、留学されていたのでは?」
「休暇には日本に帰ってきていた。 俺は親に育てられた覚えはないし、居ないも同然だ。 それはそうと、隣に来たまえ」
静がシーツをめくり、ポンとベッドの上に手を置いた。
すると透子が後ろに後ずさる。
「い、嫌ですよ。 こんな時ぐらい大人しくして下さい」
「さっきはほんの少しつついただけで、あんなに乱れた癖に」
「…そ、んなっ、こと……は…」
ぼっと顔を赤くし、言葉が尻すぼみになっていく。
「フ…冗談だ。 今そんなことをしたらまた頭に血がのぼる。 以前に国立で一緒に眠った時のキミの寝心地が妙によくて、不思議と心が安らいだ。 不眠気味の俺が三秒で寝落ちた」
穏やかに話す静には、いつもの『そんな時』の危うい感じはない。