第6章 針
いつもの控え目な老人といった風情で、青木がガラスポットとグラスをベットサイドに配する。
そして茶葉の開き具合をチェックしてから壁際に佇んだ。
「透子、あの三田村という者をどう見る」
「どう見るとはどんな意味ですか」
「じつは今週に従業員の一部を入れ替えた。 今回のあれは入社試験だ。 青木、救急班の一人は駄目だな。 湯が飛んだ包帯をまた救急パックに入れるとは、衛生観念に問題がある。 他を当たれ」
「は」
自分のひと言であの人の進退が決まるということ? 透子は慌てて三田村をフォローした。
「三田村さんはとても良い人です!」
「だそうだ」
「は」
あの時、静はボーッと鼻から血を出してただけではないらしい。
青木がチラリと手元の時計を見、落ち着いた仕草でティーカップにお茶を注ぐ。
「でも、なぜ入れ替えなどを?」
「従業員に男がいるとまずいだろう────可憐なキミが四六時中いかがわしい目で見られ、あまつさえ襲われやしないかと想像すると、俺は気が気ではない」
………そんな馬鹿馬鹿しい理由で。 解雇された方、ごめんなさい。 透子が心の中で土下座した。
というよりも、なにより一番いかがわしいのは静では。