第5章 恋人 - 定義と認識 2*
────霞んだ透子の視界の中で、端正な造形の、静の鼻からツー…っと、赤いものが滴った。
「フッ………どうやら、のぼせたようだ」
「静さーんっ!?」
慌てて起き上がり、次いで自分の身の回りに、なにやら数多く濃い気配を感じた。
「静様が出血ゥ!!!!」
スパァン!! と露天風呂の引き戸を勢いよく開けたのは青木だった。
「きゃああああっ!!?」
透子が悲鳴をあげ、タオルで体を隠そうとする。
それに関さず、いつもは穏やかな青木が声を張りながら湯に入り、ザッパザッパとしぶきをあげて静の体を後ろから支える。
「救急班!!」
加えて壁の隠し戸というものからか。 二名の人間が飛び出て来、あっという間に静の姿が見えなくなった。
「透子様の確保!」
「ハ!! ここに!」
そして頭上の塀から人が降ってきたと思うと────透子が宙に浮いた。
「ひゃあ!!」
素早く体に新しいバスタオルを巻き付け、ひょいっと、ことも無げに自分を抱き上げたのは………ランチの時の女性の給仕だった。
「ああああの! 私は別に、大丈夫ですから」
「お許しください。 非常事態に急襲がないとも限りませんゆえ。 静様の大切な方をお守りするのも我々の役目」
き、急襲?