第9章 きゅう
見晴らしがいい。
いつか来たような気もするけど、遠い昔のことなのかそんな気がするだけなのか。
下に見える町の一部に確かに俺は居たはずなのに、こうして見下ろしてるのは不思議な気分だ。
いつもなら忙しなく動いてるのに、この場所はえらく時の流れが遅い気がする。
落ち着くってきっとこう言う感覚だったんだと、今更体感している。
の傍にいたヒロも、こう言う感覚だったんだろうか。
…。
たまにはこう言う時間も良いのかもな。
ゴロンっとその場に寝転ぶ。
スーツだとしてもクリーニングに出せば良いと、土で汚れるのは気にせずに、広々と全身を伸ばす。
やけに空が高く感じる。
高台だからか。
遠くで鳥の鳴きごえがする。
目の前を横切る蝶々。
さわさわと音を立てる草木。
まるで自然の一部にでもなったかのような、気分だ。
生きてるんだ、俺は…。
そのことに、どうしようもなく苦しくなる。
…あの頃に、戻りたくなる。
今の自分を悔いているわけではない。
あいつを責めてるわけでもない。
むしろ、使命を全うしやり遂げたことを尊敬している。
終わらせたのは許せないが。
あの場なら、俺だってそれ以外の改善策が咄嗟に出てくるとは思えない。
同じ行動を取ったかもしれない。
そう思ったら、納得もできる。
雲が太陽を隠す。
それでも空はまだ青かった。
「ぜーろ、」
目を隠すよう、片腕を両瞼の上あたりに配置する。
ドサっと俺の隣に座り込んだ松田。
「良い場所だろ、ここ。たまに来るんだよ」
「偉く待遇がいいな」
「はは」
ライターをつける音に、こんな時でもタバコかよなんて思ったりして。
「目に染みる」
「そう言うことにしといてやるよ。なぁ、ゼロ?」
「ん?」
「大袈裟だけどよ。俺らが生きてる場所も、そう悪くはねぇよな」
「…ふはっ、」
「なんだよ?」
「いや、お前の不器用さ?ぶっきらぼうさ?に、救われてるなって実感したところ」
「爆弾解体できるんだぜ?器用だろうが」
「そう言うことにしといてやる。…なぁ、俺好きだったのかな」
「今更かよ、見え透いたことを」
ばっと起き上がる。
「っ、好きだったのか?」
「それ以外に何があんだよ」
呆れたように言う松田に体温が上がる。