第9章 きゅう
そこだけは褒めてやる、なんて、どこから目線なんだよ。
「ヒロも苦労したんだろうな、手のかかる二人で」
「なっ、」
「お前ら二人、…とくにゼロは、頭がいいくせに馬鹿だから」
「あ?」
「頭が硬いからいけねぇ」
盛大な溜息をついたあと、胸ポケットに手を突っ込みタバコを一本咥えた松田。
「おかしいと思ったんだよ、俺らの前じゃ泣かなかったもんな。お前」
見透かしたように遠い目をしている。
「いいんだよ、言って。一人じゃ受け止めきれなかったなら、俺らが一緒に受け止めてやるんだから。
そのための仲間だろうが」
ありきたりな言葉なのに、ストンと胸に落ちた。
「あとなんだ?ヒロのこと言わなかったらは、あぁならなかったって?
そんなわけねぇだろ。遅かれ早かれ耳に入んだから」
「…」
「落ち込むのはしょうがねぇよ、大事な奴が亡くなってそうならないわけがねぇ。
俺だって、恋人と親友で立ち場は違うかもしんねぇけど、萩があのまま助からなかったら、どうなってたかわかんねぇよ。
生きてても、たまにあの瞬間夢に見ることがある。
俺でさえそうなんだ、お前らが参るのも無理もねぇよ」
なんでこんな、ストレートにぶつけてくるかな。
余計、泣けてくるじゃないか。
「ゼロ、言いたいのはそれだけか?マイナス思考のめんどいやつは聞きたくねぇけど、主観じゃねぇなら聞いてやるよ」
「優しくないな、お前は」
「ゼロが女なら聞いてやってもいいけどな、生憎ヤローに優しくする気はないんでな」
「それこそ萩の領分だろ」
「違いねぇ。つってもま、アイツは生粋の人たらしだから。ヤローにも優しくするんじゃねぇの、しらねぇけど」
「くそ、相談相手ミスったか」
「勝手に泣き出したのお前だろーが。けど、そうだな、身内価格ってことで、破格にしといてやるよ。他に言いたいことないなら、リクライニング下げて目でも瞑っとけ」
少しだけ窓を開けて、BGMはいつの間にか穏やかな音楽へと変わる。
「え?」
「クマすげぇぞ。風見からいわれたんだよ、今日降谷さんのオフなんですっ!って、最近お前が寝ずに仕事してるから、心配ってな。
まったく、佐藤の手前、お前らと連絡してるのバレたらドヤされるって毎回キモ冷やす俺の身にもなれよ。
あと風見の身にもな」