第9章 きゅう
「でも、今更になって思い出すんだ。
が言った、言わなかったら分からなかったって言葉」
『納得、しなきゃいけない?…降谷君ってば意地悪だね。
あんな電話寄越して、こんなの持ってきてさ。
信じるしかなくなるじゃん。ヒロがいないって』
『納得させたいなら、血、…拭き取らないでそのまま持ってくればよかったじゃん』
『こんな綺麗な状態でもってきてさ、ドッキリみたいじゃん』
『それでなくても、ヒロ。帰ってきてなかったんだからさ。降谷君が私に言わなかったら、私はどこかでヒロが生きてるって思ってやっていけたんだって』
あの日、俺は本当は何を思ってたんだっけ?
『証拠なんていらない、私は警察じゃないもの』
『証拠が必要なのは、降谷君の方でしょ』
「ヒロがいなくても生きていけるって言ったんだ、は。…強いから」
「ゼロ、違うだろ。ヒロがいなくても生きていけるっつーのは、
違うだろ」
「あぁ、今なら分かるよ。
潜入捜査をしている身だから、頻繁に会えてたわけでもないだろうし、俺が言わなかったら、どこかで生きてるって次に会うのを楽しみに頑張れてたってことだろ?俺のせいなんだよ、あの子がああなったのは」
強く握りしめたせいで、スーツに皺がよる。
「ヒロとの約束だけで、あの子は生きていけたのに。
俺のエゴだよ、…俺が受け止めきれなかったから、俺と同じ思いでいて欲しかったから…」
今更涙なんて止まらない。
「俺の方がヒロといたんだ、ずっと、いたんだ…っ、そんな簡単に受け止められるわけないじゃないかっ、
何も知らないままでいるあの子が、羨ましいって多分どっかで思ってたんだ…俺は、ずるい奴だから」
こんな泣き言を聞かされて、松田も迷惑だろう。
大の男がこんな醜態、情けないな…。
「お前らにも、言うべきじゃなかった」
「おい。…お前、よかったな。俺が運転してなかったら一発喰らわせるところだったぞ」
ドスの聞いた松田の声。
久しぶりに聞いたような気がした。
「…まったく、ヒロのやつも大変な奴ら残していきやがる。
泣き方、と一緒じゃねぇか。めんどくせぇ」
「ひどい奴だな」
「そこは違うな、アイツ、一回泣き始めるとどんどん落ち込んでくから。お前は言い返せる元気がある」