第9章 きゅう
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「違くないよ。違く、…ないんだよ。
降谷君の言うとおり、ヒロの代わりなんていないんだから。
パズルのピースみたいにさ、合わないのを無理やり嵌め込んだって、足りないものは足りなくて、完成するわけじゃ無い」
諦めたように笑う顔、俺は何度その顔を見てきたんだろう。
「じゃあ、あの谷原って奴は?」
「…」
「あいつは、本物の間違いのないピースなのか?」
ほろっと、彼女の睫毛を涙が濡らす。
それに手を伸ばす勇気が湧かないのは、彼女に触れてしまったら簡単に壊れてしまうような気がしたから。
「そうなってくれたらいいって、」
「どうして、ヒ」
"ヒロはもういいのか?忘れるのか?"
自然に、口をついて出してしまいそうだった言葉を、慌てて抑え込む。
責めるような言葉を、ヒロが望まないような言葉を…。
「はは…」
そっか、俺は…。
「ふるや、くん?」
「ごめんな、。責めるつもりはなかったんだけど、結局泣かせてしまって」
「あ、えっと、…これは、違くて」
ワタワタするを見て、焦っているのは俺の方なのにって少しおかしくなる。
「うん」
「泣いて、ずるいね。わたし」
自分で涙を拭くを見たら、やっぱり俺のせいでもあったのかなって、酷い俺はカケラでもそうあってほしいって、多分こっそり思った。
「そんなことない」
ずるいのは、俺の方だ。
「…、あのね。降谷君…谷原さん、ヒロに似てるの。
性格も、話し方も、見た目も違うんだけど、似てるの」
「え?」
「あ、でも。代わりにしようとかそういうんじゃないよ。
ただ、今は一緒にいたいの。優しくて、落ち着くの」
その表情を見た時、あの頃を思い出した。
3人で過ごしてた、あの毎日を。
「降谷君も、一緒にいたらわかると思う」
「…」
「だけど、こんなこと言ったら…ヒロ、怒るかな?」
「ヒロは」
今更ヒロの声が、言葉が、思い出せない。
「それは…が1番よくわかってるんじゃないか?」
逃げた俺を見て、ダサいって笑うだろうか。
「そう、かな」
「そうだよ」
「…じゃあ、ヒロにいつか聞かないと」
大切なものを無くした後に、彼女が踏み出した初めの一歩だったように思う。