第9章 きゅう
「松田たちをここに呼ばないだけ、優しいと思ってくだいね」
そう言って、私をカウンター席まで誘導する。
「お手柔らかに」
「出来るかどうかは、保証できない…何から話そうか」
「…」
降谷君が、私の隣に座る。
「ここ数日、に言われたことずっと考えてた。
アイツらにも、もう少し時間をやれって言われた。
…けど、引き止めないと君がどこかへ行ってしまうって思った」
その声に、さっきまでの覇気はない。
「背負うとか、考えたことなかった。…そういう考え、俺にはなかった。
ただ、俺が一緒にいて欲しかっただけなんだって、結局そこに行き着いた」
「…」
「一緒にいてくれると思った。…でも、思い過ごしなだけだったんだな」
バッと降谷君を見れば、見たことないような顔で、泣きそうな顔で笑った。
「ヒロの代わりに君のそばに居てやれるのは、俺だけだって。アイツらに何言われようと、君のことは俺がよく分かってるって」
「降谷君…」
「違うよな」
「…」
「萩みたいに1番に君のそばに行ってやれない。
松田みたいに君が頼りたいときにそばにいてやれない。
班長みたいに君に言葉を贈れない。
谷原って奴みたいに、俺は君に寄り添えない…
ヒロの代わりにならなきゃいけないのに、それができない、俺は俺だから」
降谷君の言葉が、棘みたいに刺さる。
「俺は、必要ない?」
「…ちがうよ、」
でも最初に刺したのは、私の方だ。
「あの日はごめん。せっかくお見舞い来てくれたのに」
「…」
「あの日だけじゃない、避けてごめん。…怖くなったの」
「怖い?」
「進めなくなった私を、降谷君達が支えてくれてた。だけど、あの日降谷君と付き合うかもしれないってなった時、みんなで集まるって話になったでしょう」
「ん」
「あの日ね、いっつも早く来てくれる萩原君がキャンセルになって、心配して電話してくれた松田君の受話器越しに女性の声が聞こえて、降谷君の金髪のすごくきれいな彼女さん見て、思ったの」
「…」
「班長さんにはナタリーさんもいて、…みんなを縛っちゃ駄目だって、みんな私みたいにヒロしかいないわけじゃないって」
「それは違う」
降谷君の顔を見ながら、どうして傷つけることしかできないんだろうって、思った。