第9章 きゅう
「んっ」
「ごちそーさま」
「…しないって言った!」
「俺は言ってない。ってことで、頑張ってな」
ぽんぽんと私の頭を2回ほど撫で、満足げに航平さんはバイクのエンジンをかけた。
「行ってらっしゃい」
バイクに跨ったその背中が見えなくなるまで見送って、振り返った時、目が合った。
「おはようございます、さん!」
「ら、蘭ちゃん」
「見るつもりはなかったんですけど」
「あの、どこまで…」
「帰りも迎えにくるってところから」
ばっちり聞かれてるのは漫画とかでよくある話だ。
「お見苦しいものを、すみません」
「いえいえ、お話お聞きしたいです!放課後ポアロ寄るので、詳しく!」
「あ、…うん?」
「あれ、蘭ねぇちゃんまだいたの?」
後ろから来たコナン君に声をかけられて、蘭ちゃんがあわてる。
「いけない、今日早く行かなきゃいけないんだった!
約束ですよ!さん」
初めて会った時みたいに駆け出してった蘭ちゃん。
「相変わらず走ってるんだね」
「そうだね」
「姉ちゃん」
「ん?」
「安室さんと、仲直りしたの?」
「なんで?」
「…ううん、なんでもない。僕ももういかなきゃ」
「行ってらっしゃい」
「うん!行ってきます」
コナン君の言葉に引っかかりながらも見送って、ポアロのドアを開く。
鍵、かかってなかったな…。
梓さん、今日早いみたいだ。
そう思いながらドアを閉めたあと、グイッと腕を引かれた。
「ひっ、」
「おはようございます、さん」
怒気を含んだようなその声に、ブリキのおもちゃのように振り向く。
「あ、あむ、」
「えぇ、僕です。今日は、梓さんに無理を言って代わってもらったんです」
「じゃあ、私帰りま」
「帰すわけないでしょう。僕を避けるから早めにきて、あなたを待ってたんです」
「その話は」
「終わってない!俺は納得してない、出来るわけがない。
幸い、開店準備は終わってます。表はクローズになってるし、開店時間までまだ時間はあります。
俺がどれだけ怒っ…心配しているか、ちゃんと聞いてください。
逃げないで、聞いてください」
安室さんの目の下にはくま。
寝てないみたいだ。