第8章 はち
まぁいっか、もう少しだけこの温もりに触れてたかった。
スーパーの駐車場に着いてすぐ、バイクから降りるための支えを言い訳にお互いに何も言わずにそっと手を繋ぐ。
当たり前に離すこともせずに、ただ自然と。
すこしずつ、世界が無色からオレンジの淡いセピアに染まってく。
「何買おっか」
「なんでもいいよ」
「じゃあ、俺の好きなもの作るね」
「うん」
おかしなことに、谷原さんがいれば何もかも、もう大丈夫な気がした。
あんなにうるさかった周りの音が、全く気にならない。
息苦しさも、もうない。
「何がいいかな」
楽しそうに、嬉しそうに、片手に私もう一方でカゴを持って、先を行く。
グッと、込み上げてくるものがあった。
こう言うなんでもない普通のこと、多分ずっとしたかった。
ヒロと…したかった。
やっぱり、似てる。
似つかないのに、似てる。
「んち、卵ある?」
「なまもの、ない」
「そっか。野菜は?」
「…」
「ふふ、買おっか」
「でも、料理できないわけじゃないよ!みんなが来る時はちゃんとするもん!たまたま、誰も来ないから冷蔵庫空に近い状態なだけだから」
「はいはい」
諭すように笑って、カゴには色々ものが詰まってく。
「そんなに買ったら待てないよ」
「俺が持つからヘーキ。欲しいの、本当にない?」
「ない」
「わかった、じゃあ…帰ろうか。無人レジは…っと」
連れられるまま、無人レジで清算してく。
「カゴに入れてって?俺、ぴってするから」
うなづいて2人で協力して、その作業を進めてく。
「これで最後ね、」
「うん、あ、私出す」
私が言うより先に、会計にむかって、彼はぴっと携帯をかざす。
「あ、」
「言ったじゃん、俺ぴっとするからって」
手帳型のスマホカバーをパタンと閉じて、胸ポケットにそれを入れる。
ヒロに似た仕草、…気のせいか。
「帰ろ」
ニコッと笑った顔になんとなく、勝てないなって思った。
「うん、…ありがとう」
「どういたしまして」
荷物も何も、全部谷原さんがバイクまで運んで、私にヘルメットを被せる。
「しっかり捕まってね」
言われる前に、少し腕を強めた。
離したくないって思ってしまったから。