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夕刻、貴方の影を探す

第8章 はち


 「"オレ"はね、多分の言葉や気持ち…」

 その言葉の続きを待つ。

 「…っ、まぁ、なんて言うか。全部受け止めるから。
 世界がその人のことを忘れていくのが怖いなら、俺も一緒に覚えておく。
 2人で覚えてたら、そんな簡単にの中から消えたりしないよ」
 「谷原さんは、ヒロを知らないじゃん」
 「うん、だから教えてよ、全部。教え続けてくれたら、も忘れる暇なんてないでしょ。
 だから、美しい景色も、色も、美味しいものも、新しいのもが遮断しなくていいよ、ゆっくりでいいよ。
 俺も急足苦手なんだ、ゆっくりいこう?
 暗闇は俺夜目効くから転ばないようにエスコートしてあげれるし」

 すっと、一度空っぽになった心に、ゆっくりと温かい言葉が沁みてく。

 「一緒に、居てくれるだけでいいよ。
 俺と、共有しよ」
 「私、絶対ヒロを忘れないよ?」
 「それでいいってば、…送ってく。そろそろ暗いし、買い物して帰ろ」
 「うん」

 そっと差し出された手に、そっと重ねる。
 あったかい、優しい手だ。

 止めていたバイクにまたがる前に、ヘルメットを被せられて、カチッと留め具が付いた。

 「しっかり捕まって」

 始めよりもすんなりと、腕を回すことができた。

 広い背中に耳を寄せる。
 あったかくて、落ち着く。

 トクトクと動く心臓の音に、そっと目を閉じた。

 私って、案外単純だったみたいだ。

 信号が赤になって、止まる。

 「寒くない?」

 谷原さんの声が、優しい。

 「大丈夫」

 距離がグッと縮まったような気がする。

 教えた覚えもないのに、私が慣れた道を進んでく。
 萩原君あたりが教えてくれたのかもしれない。

 「何食べたい?」
 「んー、」
 「俺、料理得意なんだよ」

 信号で止まるたびに、私に話しかけてくる。

 「そうなんだ」
 「なんでもいい?」
 「作ってくれるの?」
 「うん、そのつもりだよ。言ったでしょ、共有したいって」
 「うん」
 「今日は、のこともっと教えて。 
 好きだった物とか、そういうのもさ」
 「うん…」

 直進すれば私の家に着くのに、谷原さんはウィンカーを上げる。

 「どこいくの?」
 「買い物」
 「うちにあるよ?」
 「うん」

 それでも、曲がった。
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