第8章 はち
目が合った。
ヒロとは別人って、強く宣言してくるような瞳の色に、ずっと胸が痛い。
バッと腕を広げてくる。
…だから、どうすればいいっていうの。
「、今だけ俺のこと好きにしていいよ」
「どういうこと、」
「誰かの代わりにしてもいいよ。似てるんでしょ?」
ビクッと肩が揺れる。
「…」
「ごめんね」
何に対しての謝罪なの?
遊具を掴んでいた手を解かれる。
そのまま、片腕でぎゅっと引っ張られる。
「…あぶな」
「うん、だから謝った」
ちゃんともう一方の腕では遊具が回らないように、抑えて。
そんな力があるように思えないのに、私のことまでちゃんと支えてくる。
ふわっと、ヒロの匂いがした。
…でも、多分気のせい。
「うまく行かないな」
谷原さんの言葉が、空に消える。
「…ごめんね、今日は無理やり連れ回しちゃって。
無理させて、ごめんね」
ぎゅっと、抱きしめられたその腕の強さが痛い。
「泣かせたいわけじゃないんだ」
らしくない、その優しい声が痛い。
「けど、我慢して欲しいわけじゃない」
「…何も知らないくせに」
「うん、…だから、知りたくて。初めましてから始め直したくて、ここに来たんだ」
「なんでそういうこと言うの」
「いや?」
「嫌じゃないの…けど、苦しい」
「え、」
「自分でも、よくわからないけど。始め直したいって、今までがなくなるみたいで、苦しい。
私、無理。そんなに早く歩けない、リセットもできない」
谷原さんの心臓の音が確かにする。
「待っててもらっても、足がすくんで動けない。
…、ヒロの仲間に、…ヒロの大切な人に、酷いこと言っちゃった。酷いことしちゃった。
うまく言葉にできないって言い訳にして」
「…」
「それなのに、どんな顔してあなたと仲良くすればいいかわかんない」
そっと体温が離れる。
どうして、そのことに安心してしまうの?
「ごめんなさい、迎えにきてもらって。心配して、こうやって気晴らしまで考えてくれたのに」
ぐっと、肩に両手が乗るのがわかる。
「…他に言いたいことは?」
「え」
「後は?聞くから、全部。一つ残さず聞くから」
ヒロに言ってほしかったことを、簡単にこの人は言ってしまう。