第7章 なな
「みんな、まっててくれなくていい」
降谷君が黙る。
「しのうと、したわけじゃない、」
ぎゅっと布団をつかむ。
「にげたかった、だけ」
弱い私。
「にげたさきで、ひろが、むかえにきてくれたから、」
昨日の夜のたった一瞬を想う。
「やっとかいほうされた、って。
ひろがいない、あくむ、もうみなくていいんだって、ホッとした」
ホッとしたのに。
「…、ヒロは」
「ふるやくん、もう、せおわなくていいよ。おろしてって、わたしのことは」
「そんなこと、」
「しってる、あらりょうじなんて、しなくていい。ヘーキだから、…。
みたよ、ふるやくん。綺麗な女の人となりにのせてた。
かくさなくていいのに、…」
「何言ってるんだよ」
「まつだくんだって、はぎわらくんだって、はんちょうだって、気にしなくていいんだよ、
みんなを見るの、つらいの。
どうしてその中に、ヒロがいないんだろうって」
立ち上がる音がする。
傷つけた、ような気がする。
「どうしてヒロだけがって。これ以上一緒にいたら、みんなを恨んじゃうきがする。だから、もう、放っておいて。
…帰って」
最低な言葉だ。
大好きなみんなを、
支えてくれたみんなを、
裏切るような言葉だ。
「…本心、なのか」
降谷君のこえが、震えてる。
「うん、」
「そうか」
「うん」
「………わかった」
ドアの音がした。
入れ替わりで入ってきた看護師さんが、先ほど降谷君が言ったようなことを同じく言っていた。
降谷君が帰った後、もちろん他の3人も戻ってくることはなかった。
ぽっかりと空いた穴が、また大きくなった気がした。
だけど、解放できたならよかったって。
今までごめんって、
ありがとうって、
きっともう言うこともできないけど。
点滴が終わって一日経った。
検査の結果も特に何もなく、ただきちんと食事は摂るように言われた。
病院を出る頃には、すっかり夕陽がさしてる。
俯いたまま出ると、ブランっとバイクを鳴らす音がする。
「やっほー」
「え、」
「迎えにきたよ、!」
ライダージャケットを着たのは、意外な人。
「どうしてここに」
夕陽に照らされて立つ、谷原航平がそこにいた。