第7章 なな
「萩原くん、お願い聞いてくれる?」
「なに?」
「"零くん"に、渡してほしいものがあるんだけど」
身構えたような、彼。
「梓さん、ちょっと裏行ってきます」
「はーい」
少し離れて作業をしていた彼女に声をかけ、引っ込む。
前に降谷くんからもらったあの部屋の鍵を、ロッカーの中にあった適当な封筒にいれ、上蓋にあらかじめ着いていた紙を取ると簡単に封ができた。
それを持って、表に戻りカウンター越しに差し出す。
「なにこれ?」
「中身は鍵。危ないものじゃないから、渡して。
渡せばわかると思うから」
「自分で渡せばいいだろ」
私を伺うように言ってくるから、知らないふりをする。
「お願い。萩原くんにしか頼めないの」
「…どうして?」
「すぐ、渡したいから。萩原くんのが適任かなって。お願い」
ずるい私。
でも、直接なんて優しい降谷くんが受け取ってくれるはずもないから。
「お願い」
「…わかったよ」
「ありがと。お礼に今日のデザートつけてあげるね。私からのおごり」
最後の一個残ってたケーキを出す。
「ゆっくりしていって」
「?」
気にしないふりで、テーブルを拭いてた梓さんに声をかける。
「梓さん、買い物行ってきていいですか?彼しか居ないので」
「それなら私が」
「いえ、お客さんが来ていざってなった時、私1人じゃまだ心許ないので、買い物くらいさせてください」
「じゃあ、お願いします」
「はい」
エプロンをはずしながら、カウンターを出る。
「すみません、さん」
萩原くんとさえ、一緒にいるのが苦しくなった。
みんなを縛ってちゃいけない。
それだけじゃなくて、
置いていかれる前に、今更でも距離を置こう。
…本音はこっちだったかもしれない。
「俺も行こうか?」
「ポアロの店員さんじゃないし、大丈夫だよ」
戯けたように言って、店を出る。
「あれ、コナン君?」
「姉ぇちゃん?」
「いらっしゃいませ、って言っても、私は今から買い出しなんだけど。
中に萩原くんいるから、少しだけ構ってあげて?」
「ボクも行こうか??」
「ううん、大丈夫。ありがと」
腰をかがめて、頭を撫でるとくすぐったそうに笑った。