第7章 なな
「梓さんの方が可愛いです。あれ、ところで安室さん遅くないですか?」
「あれ?聞いてません??今日急遽お休みになったそうですよ?」
…ちょうどいいと思った。
距離を置くのに。
もともと、シフトで彼の開けた穴に入るのが私の役目だったし。
これを言って仕舞えば最後なんて、どこかで覚悟してた。
「あずささん、お願いがあるんですけど」
「なんです?」
「私の出勤、安室さんと被らないようにできません?もちろん、彼が急遽休みになったりとか、半日抜けなきゃ行けない時もはいるので」
まんまるく目を開けた彼女がしゅんっとする。
「いいですけど………安室さんと何かあったんですか?」
「ううん、あー、…ん。私、恋人ができたからさ、昔馴染みとはいえ、仲のいい異性と一緒に働くのどうかなって思って。
カレ、やきもち焼きだから」
「え!おめでとうございます!」
「ごめんね、私情はさんでしまって」
「いいんです!ぜんぜんです!安室さんは知ってるんですか?」
「ううん、内緒。内緒にして、安室さん心配すると困るし、」
「じゃあ、聞かれたら上手く私の方から言っておきます」
「ありがとう、助かります」
ーーーー
ーー
その日は1日スムーズに過ぎた。
ほんと、驚くくらいスムーズに。
閉店間際、慌てたように開いたドア。
ドアベルが大きくなった。
「いらっしゃいませ」
梓さんと2人で声をかける。
「こんばんわ!、いた!!」
萩原くんが私を一直線にとらえる。
彼の他にお客さんは居なかった。
「あぁ、萩原くん。なに、どうしたの?仕事終わり??」
「アイツらに、連絡取れないって聞いて!探してた」
携帯の電源を切っていたことを思い出す。
もう、入れるつもりもないけど。
「そっか、ごめん。昨日充電忘れてて、電池切れちゃって」
淡々と返す。
「とりあえず、ご注文は?コーヒーでいい?」
萩原くんが、ボソッと言った。
あの時みたいだって、…。
私は聞こえなかったふりをして、カウンターに入りホットコーヒーを用意する。
「萩原さん、座らないんですか?」
固まったままの萩原くんに、促したのは梓さん。
「…あぁ、うん」
促されるままに、カウンター席へと座った彼。
「あ、そうだ」