第7章 なな
「電話、切るね」
『ちょ、待て!おい!』
通話の終了ボタンを押す。
そのまま、電源さえも切る。
こんなに簡単に遮断できる世界なのに、もっと早くこうしなきゃいけなかったのに。
明日の朝ポアロに出勤したら、安室さんに鍵を返そう。
だけど、自宅にも帰りたくなくて。
家とは反対方向に歩き出す。
この時、どうなってもいいって思ってた。
だんだんと深まってくる夜に、街を照らすネオンがうるさい。
頭が痛くなり始めて、またいつものが始まった。と、自分でも鬱陶しくなって。
逃げ込むように会員登録すらした事がない24時間営業の漫画喫茶に、初めて入った。
いまさらホテルなんて取れるはずもなく、今夜はここで時間をつぶす事にした。
すらすらと店員さんに言われるがまま、個人情報を書き出し会員登録を済ませる。
「こちらの番号で」
と、渡された鍵で個室へと入る。
1人にはぴったりの大きさだった。
明かりを暗くして、体を小さく丸めて寝転ぶ。
借りたブランケットと、上着を布団がわりにして目を閉じた。
全部、忘れたいと都合のいいことを思う。
ぎゅっと目を瞑る。
このまま醒めなきゃいいのに、何もかも…。
ーーーーーーー
ーー
朝、目が覚めて。
併設されたシャワールームでシャワーを浴びる。
設置されてたシャンプーで少し髪が軋む。
適当に洗って、適当に乾かして。
そろそろ出ないと出勤に間に合わないと、その場所を出る支度をする。
何時間そこで過ごしてたっけ。
会計時、数枚の千円札を出したことで案外時間が経っていたことがわかる。
流石に服を着替えないといけないと、一旦家に帰ろうとするも億劫で、近くにあった24時間営業の雑貨屋で適当に服を見繕った。
ポアロに着いたのは私が1番早かった。
珍しいこともあるらしい、次に来たのは梓さんだった。
「おはようございます!さん」
穏やかに笑った彼女に、私も同じように返す。
「あれ?雰囲気変わりました?」
私を見て、キョトンとする彼女にじっと見つめられて居た堪れなくなる気がしてくる。
「け、化粧してないからかも。した方いいかな?」
「すっぴんですか?!すごい、すっぴんも可愛らしい」
「そんなことないですよ!」