第7章 なな
もう一度ドアの閉まる音がした時、私は確認するようにその車を覗き見た。
ゆっくりと走り出した車の後ろに、ナンバー新宿300、73-10。
置いてけぼりを食らったような、そんな気持ちがした。
もっと上手く隠してくれたら良かったのに。
もっと早く言ってくれたらよかったのに。
あんな美人なあいてがいるなら、私なんて邪魔でしかないだろうに。
ぐちゃぐちゃといろんな気持ちが混じる。
降谷くんは優しい人だから、…。
わかってる、ちゃんと分かってる。
降谷くんに縋っちゃ行けなかったんだ。
同時にとある仮説が浮かぶ。
…だからか、
降谷くんの部下の風見さんを紹介してくれたのは。
私の中で変に腑に落ちる。
…。
キャンセルになった萩原君のこととか、
連絡のこない松田君のこととか、
さっきの降谷君とか、
もういない、ヒロのこととか…。
風見さんまで巻き込んでしまう前に、これ以上みんなに縋る前に。
ほんとはもっと早く、こうするべきだったのに。
…降谷君とは一緒になれない。
この間の夢見たいなあんな穏やかな時間とか、やっぱりもういらない。
みんなのこと犠牲にしてまで、そんなのほしくない。
着信が鳴る、
画面には松田君の文字。
通話ボタンを押した。
『、悪い遅くなった。今迎えにいく、どこにいた??』
電話越しだと少し低い声。
私、何度この人に助けられたんだろう。
「大丈夫、」
『大丈夫ってお前、』
「もう、大丈夫だから。…お腹すいて、さっきもう食べちゃったんだ」
『は?』
「ごめんね、」
『いや、それはいいけどよ。…どうした?』
「なにが?なんもないよ。なんも、ない。
今日、萩原くんいないでしょ。みんなも仕事だったし、明日だって出勤だしさ、無理に集まる必要なくない?」
努めて明るく言った。
それが、私の精一杯だった。
『…わかった。まぁ、集まるのなしにしても、お前外だろ?米花町なんて何があるかわかんねーし、とりあえず迎えに行くから。場所教えろ』
「ほんとに、大丈夫だから。もう家の前だし、」
そう言いかけた時、電話越しに聞こえた松田くんを呼ぶ女性の声。
「松田くんこそ、誰かといるんでしょ。呼ばれてるよ」