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夕刻、貴方の影を探す

第1章 いち


 熱い熱いお湯でシャワーを浴びた。

 ただ、いつも通りに。

 『シャンプー変えた?オレ、この匂い好きかも』

 なんて、幻聴が聴こえる。

 『このボディソープすごいね、オレの肌までモチ肌になった!』

 苦しくなるな。
 今更思い出すなんてさ。

 ザーザーとかき消すように流れつづけるシャワーを止めたのは、誕生日プレゼントに貰った、ヒロが選んでくれた口紅が泡と共に排水溝に流れた後。

 『タオル、兄さんが送ってくれたんだ。2人で使ってって』

 そう言ったのに、結局ヒロがこのタオルを使ったのは片手で数えても余るくらいだった。

 あまり来てくれなかったくせに、いちいち想い出にいる。

 「ヒロに会いたい」

 最後に会ったのは、記念日のデート。
 あれからもう何日経った?









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 その日チャイムが鳴ったのは、約束の時間から2時間と少ししてから。

 額にはうっすらと汗をかき、あまりにも真剣な顔でごめんねっていうから、許さずにはいられなかった。

 「大丈夫、ヒロ?」
 「うん…大丈夫、はぁっ、ふふ。久しぶりに焦ったよ」
 「そんなに急がなくてもよかったのに、お仕事ってちゃんと連絡くれてたし」
 「ん、でもごめん」
 「だから、大丈夫だって。おかげでいっぱいおめかし出来たしね。どう、可愛い?髪上手に巻けたんだよ」
 「は、いつも可愛いよ」

 そう言う、くすぐったくなるようなセリフはいつも言うくせに、肝心な言葉はいつもくれないヒロ。

 「そろそろ、言ってくれてもいいんだけどな」
 「ふふふ、まぁ楽しみにしててよ」
 「私プロポーズは、タキシード着たヒロが、大きい純白の薔薇の花束くれて、ひざまづいて指輪はめてくれるやつやってほしい」
 「昔は真紅の薔薇って言ってたよね」
 
 悪戯に笑うヒロに、

 「私も大人になったんだから」

 と返す。

 「そっか、…でも、は変わんないよ」
 「どう言う事」

 眉を顰める私を、それでも優しく見つめてくれる瞳が好き。

 「今でもそう言うロマンチックなことに憧れてるところとかさ。
オレを責めないで、受け身でいてくれるところとかさ」

 フワッと撫でてくれるその手が好き。

 ヒロだって変わんないよ、そうやって優しく笑ってくれるところ。
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