第4章 よん
「でも、」
降谷くんの車に乗って、流れる街並みを見ながら最初に声を出したのは私。
「ぜろの恋人は、意地悪ね」
「…」
「ポアロのお客さん、みんな笑って帰ってくの見て、嫉妬したっていうか…。
ただ、それだけの話なんだけどさ」
「…」
「ヒロがいなくなってずっと泣けないのは、私がヒロを思ってなかったからなのかなって思ってた」
「それはないだろ、」
「うん、…アホだから、信じたくなかったんだよね。感情が追いつかなくて、でもなんとなく分かってて。だから、味も色もわかんなくなった」
「…」
「今日、クッキーを焼いた時、ヒロが居たの。優しく笑いながら楽しそうに私を見てた。
私、ヒロと結婚したいって思ってた。
ヒロと家族になって、ヒロが経験できなかったことさせてあげたいって思ってた」
私1人で話して、安室さんはじっと聞いてくれてる。
少しだけ、スーパーに着く道を遠回りしてくれている気がする。
「せめて、ヒロの子供でも居たら変わったのかな。ヒロの分身みたいに、ヒロのこと感じながら生きていけたのかな」
ポロポロと落ち出した涙。
「私、いつまでヒロに執着してるんだと思う?」
「…」
「一生こうやって生きてかなきゃいけないのかな、普通に戻りたいって思ってるのに、ヒロが居ない毎日は普通じゃないからさ…
変わりたい、変われない、変えられないって、変えたくないって、しんどくて。
…ごめん、安室さんポアロ、やっぱり無理かもしれない」
ぎゅっと、抱きしめられる。
降谷くんの腕の中は、ヒロよりも少し硬くて。
あったかくて、落ち着く。
いつの間にか、スーパーの駐車上に着いてたみたいだ。
「いいよ、無理でも。
でも、辞めるなんて言わないでくれよ、ゆっくり慣れて行こうよ。
俺だって、ヒロが居ない毎日に、苦しくて寝られなくて、仕事で誤魔化してって、褒められたもんじゃないけどさ。
…でも、受け入れてくしかないんだよ。
泣いても、吐くほど辛くても、やっぱり生きてるのは俺たちなんだから。
しんどいかもしれないけど、生きたくても生きられない人がいる。
ヒロもそうだけど、…って、が1番よく分かってるよな。
だから、耐えてるんだよな」
耳馴染みのいい、降谷くんの声。
少しずつ、落ち着いてく。