第4章 よん
「さん?」
心配そうに顔を覗きこむ、梓さん。
「あ、…ごめんなさい。みんな幸せそうにポアロを出ていくから、なんというか、いいなって思って」
「ふふ、そうですよね。お腹いっぱいになって、笑顔でご馳走様って言って帰られるのを見るとこっちまで嬉しくなりますよね!」
「…はいっ!そうですね」
心に浮かんだモヤモヤを消すように、返事をする。
本当はちょっと、思ってた。
感じてた。
「すみません、ちょっとトイレに」
笑顔をむけられて、美味しかったっていってもらえて、すごく嬉しいのと同時に沸々と浮かぶ。
こんな感情持ってちゃいけないのに、蓋をしようとしてもすぐにいっぱいに溜まって溢れ出てくる。
…他人の笑顔なんてどうでもいい。
…どうして、ヒロがいないのに。
…ヒロが守ったせかいで、ヒロじゃない誰かが満たされて笑う。
「うっ……っ」
だめ、駄目だ。
ここは喫茶店で。
その奥のトイレで。
思っても浮かび上がってくるそれは、抑えられない。
梓さんにも安室さんにも迷惑かけちゃう。
息が、できなくなる。
息を、止めたくなる。
こうなるからきちんとした仕事に就けずに、後に残らないように転々と仕事を変え、毎日を生きてた。
今回は耐えなきゃいけない。
降谷君の、…安室さんの、紹介で入ったんだから。
"オレに何かあったら、ゼロを助けてあげてよ"
いつか、2人で呑んだ時に言われた。
あの時のヒロは少し酔っていて、少し潤んだ目をしてたのむから、どこかで降谷君には勝てないななんて、思ったりして。
そっか、…勝てなかったんだ。
だから、だからヒロは、ヒロの最期は降谷君が…。
ぽつりぽつりと嫌な方向に考えて、それがシミを作ってく。
ートントン
遠慮がちに叩かれたドアに、まずいと、立ち上がる。
気合いを入れるようにペチッと両頬を叩いて、ゆっくりと鍵を開けた。
「大丈夫ですか、さん」
大丈夫なわけ、ないじゃないか。
「安室さん…ごめんなさい、大丈夫です。賄い、食べすぎたのかも」
えへへと、面白くもないのに笑って。
「…早退、しますか?」
そんなの、ずるいじゃないか。
表舞台に引っ張ってきたのは、彼なのに。
「発作、みたいなものですから」