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夕刻、貴方の影を探す

第4章 よん


 「じゃあ、ありがとうね。降谷くんのお陰で、なんか今日久々に楽しかったよ」
 「俺も、久しぶりに楽しかった。明日からポアロでもよろしくな。」
 「うん。おやすみなさい」
 「あぁ、おやすみ」

 降谷くんの車のテールライトが見えなくなる迄見送った後、私も部屋へと入る。

 ガチャンと鍵をかけて、靴だなの上のトレーに鍵を置いた。

 真っ暗なままの部屋に、電気をつける。

 お風呂に入ったら、コナンくんから借りた本を読もう。
 ホットワインでも飲みながら。

 ポチッとアラーム付きのボタンを押して、湯船を張る。

 本を読もうと思うのだって、もう何年もなかった。
 そんなものを読んだって、何もならないことを知ったからだ。

 楽しいと思いたくない。
 美味しいと感じたくない。
 美しいと認めたくない。
 ヒロがいない世界で。

 ここ数年、そんなことばかり考えていたのに。

 今日初めて、ヒロがいない世界で綺麗なものを見つけてしまった。
 ヒロに言ったらどんなふうに思うんだろう。

 優しいヒロがそんなこと言うはずもないのに、想像で浮かぶものは私を責めるヒロの姿だった。

 それから数十分後、アラームがお風呂の用意ができたことをしらせる。

 服を脱ぎ、体や髪を洗った後で、ゆっくりと湯船に浸かる。

 少しだけ酔っていたから、本当は入らない方が良かったんだろうけど。
 体の芯まで温めてくれるその熱に、侵されそうだ。

 「ふぁあっ」

 コナンくんの本、こんなんで読めるのか私。
 ホットワインだって用意したのに。

 ザバァッと音を立てて、体を滑るお湯。

 熱を保つために、すぐに脱衣所で体を拭い服を着る。

 「さむ…」

 ドライヤーで頭を乾かす。
 その音のお陰で、何とか頭が冴えてきた。

 「よしっ、」

 定位置へとドライヤーを戻し、久しぶりに髪を労る。
 ヒロがいなくなってから、特別な時にしかつけないヘアオイル。
 明日なにもなくても、どうしてか今日つけたくなった。
 ちょっとした心変わり。

 「いいかんじ」

 ヒロといた時は、いつ会えるか分からないから、いつでも綺麗な状態でいたくて、いろいろ頑張ったりしてたけど、最近はそう言うのもしなくなってた。

 明日、ポアロで降谷くんが驚くかもしれない。

 …なんて、こんな少しの変化に気づくわけないか。
 
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