第3章 さん
「私ね、病気とかじゃないんだけど数年前から、色と味がわからないんだよね。
原因はわからないってお医者さんから言われてて、普段は困らないんだけど、こう言う時優しさに応えられないから不便だよね、やっぱ」
「っ、」
「…そうでしたか、」
やっと、涙が止まったのにしんみりした空気に待たさせてしまったと、慌ててフォローする‥つもりだったんだけど。
「でもいいの、生きてるし」
フォローになってないのか、微妙な顔をする2人。
「ところでさっきの方のお名前は?」
「“谷原航平"ですよ、大学で知り合ったんです」
「そう、ですか」
顔も違かった、話し方も声も違かった。
だから、別人ってわかるのに。
""って呼ぶから。
「今度きちんとご紹介しましょうか」
「いえ」
断ったのは、これ以上乱されたくないから。
「お気遣いありがとうございます。ハンカチも洗ってお返しますね」
「お気になさらず」
「さん、ボク、本とってくるね」
「うん」
沖矢さんと目配せして、リビングを出たコナン君。
「…原因がわからないとおっしゃってましたが」
「その話します?」
「えぇ、不躾にすみません。気になってしまって」
「いえ、そうですよね。私も多分同じような方が目の前にいたら聞かずにはいられないと思うので」
「お聞かせいただいても?」
「つまらない話でもよければ」
ぎしっと、ソファが軋む。
「恋人が亡くなったんです。それを知った日から食べても味がしなくて、初めは気のせいだと思ったんです。
でも、友人たちと食事をするうちに、ああやっぱり味がしないんだって、わからないんだって思って…でもこうして、飲むことはできるし」
あったかいミルティを口元へと運ぶ。
「それから、色は…面白くないなって思ったんです。
ヒロが、恋人がいなくなって、見るもの全部つまらなくて、だんだんと色が認識できなくなって。
でもいいんです、ヒロがいない世界はこうなんだって、思い知ったから。…重いですよね。すみません、こんな話」
「いえ、私が聞いたので」
「谷原に似てたんですか?その彼」
「いいえ、ちっとも。ヒロは落ち着いてて、料理が上手で、優しくて、頑張り屋さんで、…って、ちっともって言ったらさっきの彼に失礼ですよね」