第3章 さん
「さん?」
張り詰めた糸が解けるように、
噛み合った歯車がゆっくりと動き出すように、
「…っ、」
「大丈夫?」
コクコクっとうなづく。
コナン君の小さい手が私の背中を添う。
「さん、どこか怪我でもしましたか?」
座り込んだ私を覗くように、しゃがんだ沖矢さん。
「…っ、」
でも、どうしようもなく涙が止まらない。
「…ろっ、ひろ…っ、」
なんでこうも胸を締め付けられるんだろう。
なんで今更泣けるんだろう。
コナン君も沖矢さんも困っちゃうじゃん。
泣きやめ。
泣きやめってば、
なんで今更…。
「…っ、ひろにあいたい…」
「!!」
「さん、…どうしたの?」
「いったん、中に入りましょう。話はそこで、さん、立てますか?
…失礼しますね?」
フワッと浮き上がった体。
「さ、コナン君行きましょう」
ーーーーー
ーー
沖矢さんにリビングまではこばれて、そっとソファへと降ろされる。
涙は止まらないけど、だんだんと冷静になってきて、
小学生の前で
初めて知り合った人の前で
こんなにも恥ずかしい姿を見せて。
せめてコレが沖矢さんやコナン君じゃなくて、松田君とか萩原くんとか降谷君とか班長さんならよかったのに。
「…っ、」
差し出されたハンカチ。
「どうぞ」
断れるわけもなく、受け取る。
ふわっと、石鹸の香り。
「ありがとう…ございます。すみません、お見苦しいとこ、見せてしまって」
あぁ、私ってほんとダメなやつ。
「いえ、」
「…うまく言えないんですけど、知り合いに似てるような気がして、」
「それは、先ほどの彼のことですか?」
「…はい、」
コナン君が私の手を握る。
「…っありがと、コナン君もごめんね?」
「ううん」
コトッと置かれたのはミルクティー。
「暖かいのをのむと、落ち着くかと思いまして」
いつのまにか用意してくれたそれにお礼を言う。
…たしかに、あたたかい。
「お口にあいませんか?」
「多分、美味しいです。ごめんなさい、私味がわからなくて」
「え?」
「そっか、コナン君に言ってなかったっけ」