第3章 さん
「今日から入った、さんです。こちらは、ボクの探偵の師匠の毛利小五郎さん。蘭さんのお父さんです」
「です。よろしくお願いします、毛利さん」
すっと差し出された名刺。
受け取ると満足そうに
「何かお困りごとがあれば、いつでも私に相談を!」
と、髭を撫でる男性。
「ええ、その時はぜひ」
なんて、思ってもないけど。
「蘭ちゃんのお父さんってことは、コナン君のお父さん?」
「違うよ!ボクのお父さんとお母さんは、遠くに行ってるから、オジさんのお家にお世話になってるんだよ」
「そうなんだ」
あんなに仲良さそうにしてたのに、まさか姉弟じゃなかったなんて。
「お優しいんですね、毛利さん」
「いえ、それほどでも」
「毛利さん、コナン君いつものでいいですか?」
「うん!」
「ああ、頼む。安室君」
「承知しました」
笑顔までそっくりだ。
降谷君はあんな顔して笑わなかったのに…。
「さん、今日ってポアロ何時まで?」
「初日だからお昼までだよ」
「そっか!じゃあその後予定空いてる?」
まさかの申し出に驚きつつうなづく。
「え?うん」
「じゃあ、ボクに付き合ってくれない??」
「いいけど、コナン君学校は?」
「今日は4時間なんだ!」
「うん、そっか。わかった、いいよ。ポアロで待ってるね」
「コラ、坊主。あんまりさん困らせるんじゃねーぞ」
「はーい」
「じゃあ、毛利さん、コナン君お借りしますね」
「すみませんね、言うこと聞かなかったらゲンコツしてかまわねぇんで」
親子みたいなやりとりなのに、本物じゃないなんてびっくりだ。
「いえ、コナン君いい子ですし。じゃあ、仕事戻りますね」
たいした仕事してないけど。
「コナン君と何話してたんです?」
手の空いた安室さんに尋ねられ、
「デートのお誘いです」
と、答える。
ピクッと動いた表情筋。
「お昼で上がりっていったら、付き合ってほしい場所があるって。毛利さんからも許可いただいたので、ならいいかなって」
仮面が外れると、案外わかりやすい。
「大丈夫だよ、ヘマしないし」
「そう言うことじゃないんだよ」
私が聞こえない声で、降谷君が言った。